氷室については、『日本書紀』にこんな記述がある。

額田ぬかたの大中津彦おおなかつひこ皇子のみこが、つげ(奈良県東部山間地一帯)に猟に行かれた。山の上に登って野の中を見られると、何か物があり、廬いおの形であった。使者に調べさせると、帰って来て「窟むろです」という。それで闘鶏つけの稲置いなき大山おおやま主ぬしをよんで問われ、「あの野中にあるのは何の窟だ」と。「氷室ひむろです」という。皇子は「その蔵おさめた様子はどうなのか、また何に使うのか」と。「土を掘ること一丈あまり、萓かやを以てその上を葺き、厚く茅すすきを敷いて、氷を取りその上に置きます。夏を越しても消えません。暑い時に水みず酒さけにひたして使います」と。皇子はその氷をもってきて、御所に奉られた。天皇はお喜びになった。これ以後師走になる毎に、必ず氷を中に納め、春分になって始めて氷をくばった。

この「闘鶏(つげ)氷室」の説話は仁徳天皇の時代の話というのだから、4世紀初めのころのことである。額田大中彦皇子(皇族たち)が、つげ(現在の奈良県)に狩りに出たときに穴窟を見つけ、土地の有力者に尋ねと、冬に採氷し貯蔵する氷室とわかり、この氷を御所に持ち帰り天皇に捧上。その後、その地では毎年12月ごろになると氷をとって氷室に保管し、春以降に宮中で使用された...とある。そして、それを裏付けるように、昭和63年、平城京で長屋王邸跡発掘調査で「都祁(つげ)氷室」のことが書かれた木簡が発見された。日本書紀の闘鶏(つげ)氷室説話が実在したのだ! つまりは氷室から奈良時代の皇族に氷が運ばれていたという証拠なのである。 (凄い、ロマンだ!!)

人類の氷使用や氷室の創始は定かではないが東アジアでは古代中国に始まり、日本の氷室は『日本書紀』仁徳天皇六十二年条の闘鶏氷室説話が濫傍とされる。近年、長屋王家都郡氷室木簡が出土し、氷室説話との接点ができ都那氷室への関心が高まった。また、古代都祁郷に比定される奈良県都祁村や天理市福住町には氷室神社や伝氷室跡があり、近年、伝氷室跡類似の大型穴が多数発見された。また、この地域では氷室と推定される遺構が発掘され、それとの類似性が注目される。

氷利用の起源は、日本では『日本書紀』仁徳天皇 62年条の闘鶏(つげ)氷室説話が濫觴とされる。この氷室説話に登場する闘鶏は都祁、都介とも書き、近年、長屋王家発掘調査で都祁氷室木簡が出土したことで、都祁氷室への関心が高まった。また、奈良県山辺郡都祁(つげ)村内で氷室と推定される遺構が発掘された。さらに、氷室神社や伝氷室跡がある奈良県天理市福住町や古代都祁郷中心地の都祁村で類似の 摺鉢状をした大型穴が多数発見された。

どうやら、この時代は日常の飲食用ではなく、儀式用や吉凶占い、そして後続の遺体保全などに必要だったらしい。いずれにしろ王家のみにその使用はゆるされた貴重なものだった。平安時代以降は、冬に採氷した氷を氷室で保管し、夏を迎える旧暦六月一日に旧暦六月一日に氷室から取り出して臣下に氷を振舞ったという。 これは「氷室の節会(ひむろのせちえ)」という 禁中の行事の一つになる。

そして天然氷を語る上で、引き合いに出されるのが「枕草子」

「あてなるもの」と題した第39条に、現代のかき氷に通じる楽しみ方がつづられている。「削り氷にあまづら入れて、新しき金まり(金属製のおわん)に入れたる」とある。

あてなるもの
うす色にしらかさねの汗衫(かざみ)。 かりのこ。
削り氷(ひ)にあまづら入れて、あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる。
水晶の数珠(ずず)。 藤の花。梅の花に雪の降りかかりたる。
いみじううつくしきちごの、いちごなどくひたる。

「あてなるもの」、すなわち上品なものについて語っているのだが、"削り氷にあまづら入れて"の「あまずら」とは、樹液を煮詰めたもので今の甘味シロップのようなもの。それを金属製のお椀にいれて楽しんでいたというのだ。つまりはこの当時は平安貴族が「かき氷」を嗜んでいたということになる。

つまり江戸時代までは「氷」=「天然氷」だった

しかし、江戸時代になっても「氷」は自然にできるものを採氷し、自然環境のまま保存する(氷室)という貴重なままで、「氷室の節会(ひむろのせちえ)」のような習わしは、戦国時代にはいったん表舞台から消えるが、徳川幕府江戸開府とともに、「氷朔日(こおりのついたち」として加賀藩が幕府に献氷していたという記録が登場する。これまでは「氷」は皇族や幕府など権力者のためのものであった。といっても、加賀藩が献氷していたのは雪塊氷であったとされる。

江戸の夏の始まりの一日があるのをご存知ですか。旧暦の六月一日を「氷朔日」(こおりのついたち)と呼んで、この日に夏を迎えるいろいろな行事が行われます。

そんな天然氷をとりまく環境が幕末の開港によって一変することになる

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