第一三共ヘルスケアは、自分自身で健康を守り対処する「セルフケア」という考え方が、人生100年時代の日本に重要なテーマになることを見据え、昨年3月の調査に続き3回目となる働く人の「健康とセルフケアの実態調査」を行いました。その結果、セルフケアと「睡眠」の関係性が見えてきました。
コロナ禍における働く人のセルフケアの実態
コロナ禍以前と比べ、半数以上が「体調変化に敏感」になり、3割が「セルフケアの意欲が上がった」。
20~60代の働く男女を対象にセルフケア(自分自身の健康を守り対処すること)に関する調査を行いました。まず、長引くコロナ禍による健康意識の変化を聞くと、半数以上が「コロナ禍以前に比べ、自分の体調変化に敏感になった」と回答しています[図1]。また、コロナ禍以前と比べたセルフケアの変化を聞くと、社会全体での重要性については4割弱(35.7%)が「上がっている」と回答し、自身のセルフケアに対する意欲も3割(30.4%)が「上がっている」と回答しています[図2]。
コロナ禍で体調変化に敏感になり、セルフケアに対する意欲が高まっていることがうかがえます。
一方、セルフケアに対する実践率は低下傾向に。
セルフケアの実践について聞くと、 「できている(できている+どちらかというとできている)」と回答したのは48.9%でした。同じ質問をした2020年3月は54.3%、2021年3月は50.9%でしたが、さらにポイントが下がりました[図3]。
コロナ禍において第1波で高まったセルフケア実践率は、年々低下していることがうかがえます。
「セルフケアが実践できていない」と回答した理由は、「仕事が忙しい」「良い睡眠がとれていない」。
図2で自身のセルフケアに対する意欲が「上がっている」と回答した人(n=304)のうち、「実践できていない(できていない+どちらかというとできていない)」と回答した割合は、4割以上を占めました[図4]。実践できていないと回答した人(n=129)にその理由を聞くと、「仕事が忙しい」に次いで「良い睡眠がとれていないと思う」が多くなっています[図5]。
睡眠は健康に大きく影響することが知られていますが、睡眠の質はセルフケアに影響する、と考えられているようです。
働く人のセルフケアと睡眠
働く人の約4割が「日中の眠気」「睡眠時間が足りない」。
睡眠に関して、週に3回以上あったトラブルについて聞いたところ、働く人の約4割が「日中活動しているときに眠気を感じた」(39.8%)、「睡眠時間が足りなかった」(37.6%)と回答しています[図6]。
働く人の約6割が睡眠の質に「不満」あり。不満を持つ人の約8割が「改善したい」と思っている。
また、自身の睡眠の質について聞くと、約6割が「不満」を感じています[図7]。自身の睡眠の質に「不満あり」と回答した人(n=585)に睡眠の質の改善意向を聞くと、約8割が「改善したい」と回答しました[図8]。また、睡眠の質に不満ありと回答した人にその理由を聞くと、「就寝前にスマホやゲームなどに集中してしまうから」「仕事が忙しく睡眠時間が確保できないから」「健康状態に問題があるから」「コロナ禍でストレスが増えたから」などが上位に挙がりました[図9]。
セルフケアできている人は「睡眠の質」の満足度が高く、睡眠への意識も高い。
次に、睡眠の質の満足度を見ると、図3でセルフケアを実践できていると回答した人(n=489)では「満足している(満足+やや満足)」と回答した人が半数近くであるのに対し、実践できていないと回答した人(n=511)では約2割と、低い結果となりました[図10]。また、セルフケアのために意識して行っていることを聞くと、セルフケアを実践できている人は、「十分な睡眠をとる」「睡眠時間を意識して眠っている」「就寝・起床時間を意識して生活している」など、睡眠を意識して行動しています。一方、セルフケアを実践できていない人は睡眠に対する意識が総じて低くなっています[図11]。
テレワークをしている人の働き方に対する意識と睡眠
テレワークをしている人は、「働き方に柔軟性」を感じる一方、「自己管理」の負担も。
コロナ禍をきっかけにテレワークという働き方が急速に普及し、働く環境が大きく変化しました。そこで、コロナ禍での働き方について聞きました。コロナ禍での働き方については、回答者全体では、「仕事上のストレス発散がしにくくなった」と感じる人が最も多くなっています。テレワークをしている人(n=357)では、約半数(45.7%)が「テレワークや時差通勤など働き方に柔軟性が生まれた」と感じていますが、4人に1人は「テレワークが導入され、仕事とプライベートの境界がつきにくくなった」(25.2%)、「タイムマネジメントなど、仕事上の自己管理が必要になった」(24.4%)と感じています[図12]。
同じテレワークでも、「週5日以上」の人に比べ、「週1~4日」の出社と在宅のハイブリッドワーカーは睡眠トラブルが多く、睡眠の質に満足できていない。生活のリズムが乱れがち?!
次に、週5日以上テレワークをする人(n=69)と、週1~4日程度テレワークをする出社と在宅のハイブリッドワーカー(n=215)の睡眠状況を比較してみました。図6の「週3回以上あった睡眠トラブル」では、「日中活動しているときの眠気」や「睡眠時間が足りない」などの睡眠トラブルが、週5日以上の人に比べ、ハイブリッドワーカーの方が高くなっています[図13]。睡眠トラブルが多いからか、自身の睡眠の質への満足度はハイブリッドワーカーの方が低くなっています[図14]。睡眠の質に不満を感じる理由を聞くと、「体を動かすことが減った」がいずれも最も多い理由ですが、ハイブリッドワーカーは「ストレスが増えた」「仕事が忙しく睡眠時間が確保できない」「就寝前にスマホやゲームなどに集中してしまう」といったスコアが高く、生活リズムの乱れがうかがえます[図15]。
人生100年時代のセルフケア
人生100年時代、「健康」はもちろん、セルフケアもさらに重要に。
人生100年時代、4月からは年金制度が改正され、健康でより長く働くワークスタイルが広まりそうです。そこで、これからの働き方について聞くと、約9割が「就労において健康がますます重要になると思う」と答え、8割以上が「高齢でも元気に働けるようセルフケアがますます重要になると思う」、「長く働けるような社会環境が整い、70歳を過ぎても働く人が増えると思う」と答えました[図16]。人生100年時代、高齢でも働き続けることが一般的になり、そのためにセルフケアが一層重要になると考えられているようです。
セルフケアに役立つ市販薬も重要に。
自分自身の健康を守り対処するセルフケアとして、市販薬をうまく活用したいと考える人も少なくないようです。セルフケアについて聞くと、「市販薬についてもっと知識を増やしたい」と回答した人が半数以上、「市販薬はセルフケアのために役立つ」と回答した人は約7割に上りました[図17]。人生100年時代の日本、セルフケアの重要性がさらに高まりそうです。
産業医・鄭理香先生に聞く、働く人のための「セルフケアのすすめ」
睡眠はセルフケアのバロメーターに。睡眠が整うことで「社会的時差ボケ」が解消される
今回の調査結果では、セルフケアに対する意欲が上がっている人のうち、実践できていないという人が約4割もいました。理由を見ると、「運動・体を動かす機会が減った」「良い睡眠がとれていない」と回答した人が多く、生活のリズムや生活習慣が乱れていることが要因となっているようです。
セルフケアは、感染予防のための手洗い習慣から、健康のために食事や運動、睡眠に気を使うことまで、自分でできる幅広い領域が対象となります。今回の調査では、セルフケアが実践できていないと回答した人の多くが「良い睡眠がとれていない」を理由に挙げており、睡眠がセルフケアのバロメーターとなっていることがうかがえます。睡眠は一日の中で長い時間を占めることから、生活リズムに大きく影響します。ある調査※によると、コロナ禍以前は平日と休日で睡眠時間の差が生じていましたが、コロナ禍で外出自粛になったことで睡眠時間が一定になり、平日と休日の生活リズムの差、いわゆる「社会的時差ボケ」が解消されたことが分かっています。睡眠時間を同じにするだけで、生活リズムが整うことが示されています。
※早稲田大学「コロナ禍の外出自粛で生活リズム変化」 https://www.waseda.jp/top/news/70080
テレワークをしたり・しなかったりのハイブリッドワークは、睡眠トラブルを招きやすい。
コロナ禍が長くなり、現在では、通勤と在宅のハイブリッドワークが多くなっているようです。今回の調査では、テレワークの頻度別に睡眠トラブルを調べていますが、日中活動しているときに眠気を感じた人は、全体平均(39.8%)に比べて、週に5日以上のほぼテレワークの人では24.6%と少ないのに対し、週1~4日程度のハイブリッドワークの人では42.3%と多くなっています。
このことから、生活リズムが一定だと睡眠トラブルは減少しますが、テレワークをしたり・しなかったりのワークスタイルだと生活リズムが乱れやすく、睡眠トラブルが多くなると考えられます。出社と在宅のハイブリッドワークは、これからの働き方の主流となりそうですが、生活リズムが乱れやすく、社会的時差ボケという新たな課題が生まれそうです。
生活リズムが乱れがちなハイブリッドワーク、「朝同じ時間に起きる」ことが整うポイント。
社会的時差ボケに陥らないポイントは「朝」です。テレワークの前日は、通勤時間を考慮しなくていいので、つい夜更かししがちですが、毎朝決まった時間に起きて、日光を浴び、朝食を食べることを心掛けましょう。産業医として、「生活が不規則になって眠れない」という相談が増えていますが、何時間寝たかといった睡眠時間を気にするよりも、毎朝同じ時間に目覚めることを意識するようアドバイスしています。出社でも在宅でも、「朝同じ時間に起きる」ことで生活リズムが整います。
セルフケアに役に立つ市販薬。正しく理解して上手に使いましょう。
ハイブリッドワークは生活リズムが乱れやすくなるので、これまで以上にセルフケアが重要になると思います。今回の調査では約7割の人が「市販薬はセルフケアに役立つ」と答えているように、風邪や頭痛など症状が重くなければ、すぐに病院にかからなくても市販薬で対処できます。市販薬にはさまざまな種類があり、正しく選んで使うことが重要です。市販薬の正しい活用方法などは意外と知られていないことが多いので、セルフケアの一環として調べてみることをお勧めします。
セルフケアは楽しみながら取り組むことが肝心です。セルフケアをすることがストレスになっては意味がありません。真面目な人ほど、きちんとやろうと頑張りすぎてしまいます。スモールステップで少しずつ、よい習慣を長く続けることを心掛けてください。
第一三共グループ産業医 鄭 理香(チョン・リヒャン)先生
産業医 精神保健指定医 日本精神神経学会専門医 日本児童青年精神医学会認定医
株式会社Ds’sメンタルヘルス・ラボ 代表取締役社長
東京女子医科大学病院、都立梅ヶ丘病院、都立松沢病院などを経て、東京大学 職場のメンタルヘルス専門コースTOMHを修了し、現職。臨床診療を行うとともに、産業医・顧問医・研修講師として、さまざまな職場(企業や教育機関)のメンタルヘルス対策に従事。