春、新たな環境に友達、夢膨らむ季節に「汗」で悩んでいる子供がいることはご存知ですか?
10代から20代の若い世代で原発性局所多汗症の有病率は、なんと8人から16人に1人の割合です。そしてワキ汗が特に気になりはじめる年代として最も多いのが、制服を着用したり思春期という多感な時期の子供たち。
そんな子供たちが悩む多汗症について、2023年4月4日(火)に科研製薬株式会社主催の「ワキ汗・多汗症」疾患啓発セミナーで学んできました。
当日は、これまで多くの多汗症患者を診てきた「池袋西口ふくろう皮膚科クリニック」院長の藤本智子先生が多汗症や親子での認識のギャップ、最新の治療法について説明を行い、その後は中高生の患者を代表して17 歳の女子高生の山形 想さんとお母さま、 NPO法人多汗症サポートグループ 黒澤 希さんが登壇し、多汗症の悩みや治療時のエピソード、親子それぞれの立場から語っていただく座談会も実施されました。
そもそも多汗症とは?
汗は人間にとって体温調節をするために必要不可欠な存在です。その汗はエクリン汗腺より出ており、全ての人間の汗腺は数や大きさに個人差はありません。
なのになぜ人よりも多く汗をかいてしまうのか、それには精神性発汗が関係しているとされています。多汗症の人は精神性発汗により、緊張時や興奮時に多くの汗をかいてしまうんだとか。
そうはいっても自分や自分の子供が多汗症なのか、判断は難しいと思います。
もしかして多汗症?気になる症状をセルフチェック!
まずは下の項目チェックからセルフチェックしてみましょう。
上の項目からは自分や子供が多汗症であるか、下の項目からは重症度がわかります。
また実際の診断は汗の量ではなく、汗でどれだけ支障を感じているかも大事にされているそうです。
汗が原因で、学校生活や私生活に支障が…
では実際に多汗症の子供たちはどんな事で困っているのか?
それは、「握手ができない」「試験の時に答案用紙や鉛筆が汗で濡れてしまう」「服の色の変色」「臭いが気になる」「ハンカチが手放せない」などです。
多感な子供たちはこれらにより自己肯定感が下がり、人間関係やライフスタイルに影響を及ぼしています。
実際に登壇された女子高生の山形さんもエピソードの中で、家庭科の裁縫の授業中に汗で針が滑ってしまい糸を通すことができなかったと、学校生活での困難をお話いただきました。
そんな多汗症で困っている子供たちは、体や健康に関する悩みごとの相談相手として、約6割が家族や親戚を挙げていることから、家族の理解はとても必要になってきます。
ですが、親子の認識調査の結果では、中高生の患者が多汗症状について「かなり悩んでいる」「悩んでいる」と回答した割合が 90.7%だったのに対し、「子供が悩んでいると思う」と回答した母親は 65.6%という結果となり、ワキの多汗症に悩んでいる子供に気付いていない親が、多くいることが分かりました。
また汗が多いと子供が自覚したり、親が思っても「代謝がいいから」「子供だから」と「病気」が原因であるといった認識が低く、病院へ行くなど治療選択に結びつくことが低いそうです。
その中でも実際に受診し、治療したいと思った子供の中で1番の大きな障壁が治療費を気にして、受診をためらっているといったデータが1番目を引きました。
治療法として保険適用の外用剤、注射剤、内服薬など様々な選択肢が登場しているにも関わらず、その事が認知されずさらに医療機関へ受診する妨げになっていると感じました。
実際に山形さんはこの結果から、「自分で悩んでいることを親に伝える勇気が必要」とし、「保険適用の事実が周知されれば受診のハードルが低くなるのでもっと広まれば嬉しい」と話していました。
また、藤本先生からは「思春期でお互いにコミュニケーションがとりづらいという年齢的なものもあるかも知れません。親子の間でオープンにコミュニケーションをとることが重要」とお話いただきました。
では、実際に山形さん親子はどのように多汗症に向き合ってきたのかも含めて座談会でお話を聞いてきました。
小学生で「私、多汗症かも?」、親子で乗り越える「多汗症」について
中高生患者を代表して、女子高生である山形 想さん(17 歳)と母親の山形淑恵さん、「NPO 法人多汗症サポ ートグループ」代表理事の黒澤希さんも加わり、親子の認識のギャップ、治療へのプロセスなどを語る座談会「親子で 語ろう!“多汗”な悩み」を実施しました。
実際に山形さんが多汗症であると気づいたきっかけや、質問に対して〇×で答え、当時の心境を語りました。
Q. いつ頃から多汗症だと意識し始めましたか?
想さん:小学生の時に同級生から指摘を受けて汗が人より特に多いことに気づきました。インターネットで調べてみると「多汗症」という名前が出てきて、そこで初めて病気なんだとわかりました。また、体質なら仕方ないと思いましたが、病気なら治せるのではないかと思いました。
Q. 想さんが多汗症だと思ったきっかけはありますか?
淑恵さん:1番最初に感じたのは1歳の時、夏に床に座っていたら床が濡れていました。すごく汗をかく子なんだなと感じたのが最初です。汗を多くかくことは認識していましたが、体質や子供だからと思っていました。勉強に支障が出たり、子供が人の目を気にする様になり本人から「多汗症」という病気があることを聞き、私も「病気」なんだと認識しました。
Q.多汗症の悩みについて、親と認識のギャップを感じたこともありましたか?
想さん:〇です。汗をかいていると打ち明けても親が思っている以上に汗をかいています。そこの認識のズレがあっても仕方がないと思います。ただ、私の母は真摯に寄り添い受診も進めてくれて、とてもありがたかったです。
淑恵さん:ただの汗っかきと思ってた時は汗ぐらいだと思っていました。ただきちんと本人を見ていると本来のパフォーマンスが発揮できていない時が沢山あり、調べて多汗症とわかったのできちんと受診しようと思いました。
Q. 初めての病院での診察を検討しているとき、ハードルを感じましたか?
想さん:×です。多汗症が病気だということを知った時に、体質じゃなく病気なら、治したい、病院にいきたいと純粋に思ったので、ハードルは感じませんでした。
淑恵さん:〇です。最初に汗が多いと娘から相談を受けたとき、“汗が多いだけで受診していいのかな”という気持ちが正直ありました。ただ娘の辛さや、多汗症について調べていくうちに、その可能性があるならば受診をしなければと思うようになりました。
Q. 皮膚科で適切な診断と保険治療が受けられることを事前に知っていましたか?
想さん:×です。最初は全く知らなかったです。16 歳の時に多汗症を探究学習のテーマで調べたときに、初めて保険治療ができることを知りました。
淑恵さん:×です。最初に受診した皮膚科では治療を断られてしまい、もっと高度な治療を受けなければ ならないのかとその時は考えました。
Q. どういったきっかけがあれば受診しようと思いますか?
想さん:まずは保険治療ができるという知識が中高生の間に広がれば、費用面での心配は少なくなると思います。 自分がどれだけ困っているか勇気を出して打ち明けることも必要だと思います。また、たとえば歯が痛かったら歯医者に行くのが普通だと思いますが、同様に汗が多かったら皮膚科に行くという認識が持てればいいのかなと思います。
淑恵さん:子供が相談をしてきてくれたときに、そんなこと?と思わないでしっかり聞いてあげること。1番近くにいる親として、細かい変化に気づいてあげることが大切だと思います。
座談会を通して想さんからは、親子でのギャップの埋め方のアドバイスとして「自分から伝えることステップが必要」とし、「多汗症は当初マイノリティだと思っていましたが、調べていくうちに周りにも患者さんがいることがわかりました。困っているのはあなたひとりじゃない。諦めずいろんな人を頼ってほしいなと思います。」と語りました。
また、淑恵さんは「子供が大きくなり、思春期になってくると、コミュニケーションを取る時間が減ってきてしまうと思います。その中でも親は常に1番身近な存在だと思います。少しでも子供の悩みに気づき、勉強や生活などで本来持っているパフォーマ ンスを出せるような環境を作ってあげることが大事だと思います。」と、「コミュニケーション」の大切さを語りました。
子供が多汗症であると知ったその日からあなたはどうしますか?
今回のセミナーと座談会を通して、子供たちの「汗」の問題は「たかが、汗」ではなく日常生活や学校生活に支障をきたし、本来のパフォーマンスが発揮できないなど大変問題であることがわかりました。
特に新学期など、新しい環境や人間関係を構築するこの季節、子供たちの「汗」に少しでも気になっている時は、セルフチェックシートなどを活用し親子で考える時間を持ってみるのもいいかも知れません。
また、自分が「多汗症」かも?と感じた時は、一人で悩まず「伝える勇気」が必要です。
適切な医療機関を受診することで、保険適用での治療も可能になります。まずその一歩を踏み出してみましょう。