毎年11月14日は「世界糖尿病デー」で、糖尿病の啓発を目的とした取り組みが開催
されています。持続血糖モニター(CGM)を開発・製造・販売する医療機器メーカーのデクスコムジャパン合同会社は世界糖尿病デーに合わせ、糖尿病に関する正しい理解と、テクノロジーがもたらす新たな選択肢を知ってもらうために「世界糖尿病デー2025 メディアセミナー」を行いました

日本と海外の糖尿病の概況や「ロカボ」提唱者として有名な北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟さん、チャレンジャー/モデルの星南さん、元プロ野球選手の佐野慈紀さんをゲストに招いたトークセッションを通じて、糖尿病の実態を知る重要性を訴えました。

CGMが糖尿病患者のQOLを向上させる理由

冒頭ではデクスコムジャパン 日本法人社長の浅野元さんが登壇し、同社の事業概要について説明しました。

1999年にアメリカ・サンディエゴで創業したデクスコムは持続血糖測定器に特化した会社で、「健やかな生活をご自身の力で手に入れる」をミッションに掲げ、製品を通して糖尿病の方のサポートに取り組んできました。

従来の指先に針を刺して少量の血液を採取し、その血糖値を測定する「SMBG」では、まるで「真っ暗な山道を無灯火で走るような状態」のように、測定した1点の血糖しか把握できませんでした。

それが、ここ10年で急速に普及してきたCGMと言われるテクノロジーで、24時間血糖を持続的に計測することができるようになったのです。

デクスコムの販売する血糖測定デバイスは、世界で初めて指先穿刺が不要のものとしてアメリカの医薬食品局から承認されたほか、低血糖時のアラート機能の追加やスマートフォンとの連携、家族・医療従事者とのデータ共有機能なども世界に先駆けて取り組んでいる、この領域のリーディングカンパニーとして知られています。

そんななか、デクスコムジャパンでは糖尿病に対する偏見や誤解、CGMの認知度や利用実態を把握するため、日本全国の1型糖尿病と2型糖尿病のインスリン治療を受けている糖尿病患者様500名(20歳から80歳までの男女)を対象にしたインターネット調査を実施。

その結果、CGMを「知っている」と回答した方は約半数にとどまり、現在も指先穿刺によるSMBGを1日2回以上行っている患者が約6割いることがわかりました。そうした患者の多くが「毎回の穿刺が面倒」「外出先での測定がしづらい」といった不便さを感じていることも見えてきたのです。

一方で、医師からCGMの使用を勧められ、従来のSMBGとCGMの両方を使ったことがある患者に調査を行ったところ、約85%の方が満足度の向上を実感しているという結果が得られました。患者の多くが日常生活の安心感と指先穿刺が不要という利便性を高く評価していることが伺い知れる結果となりました。

「国内では約120万人の方がインスリン治療を行っているといわれていますが、1型糖尿病の方は約6割の方がCGMを使用しているのに対し、2型糖尿病で1日複数回のインスリン注射をしている方のCGMの普及率はわずか1割強にとどまっています。さらに、1日1回のみの基礎インスリン投与の方になると、CGM利用率は1割未満というのが現状で、実際の普及にはまだまだ大きな伸びしろがある状況と言えます」(浅野さん)

“自堕落”なイメージが誤解を生む糖尿病の実態

続いて、北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生が登壇し、糖尿病についての詳しい解説を行いました。

そもそも「世界糖尿病デー」が11月14日 に定められているのは、インスリンを発見したことで知られるバンティング博士の誕生日に由来しています。006年に国連が公式にこの日を記念日として採択して以来、世界全体で力を合わせて糖尿病対策に取り組んできました。

しかし、世界各国で糖尿病に関する啓発や対策が進められているにもかかわらず、糖尿病の患者数は減るどころか、今もなお増え続けているのです。

マラリアによる年間死亡者数が約60万人、結核が約150万人、エイズが同じく150万人、そして新型コロナウイルス感染症が約220万人とされているなか、糖尿病によって亡くなる方は年間でなんと約500万人にものぼります。

糖尿病は単に血糖値の問題にとどまらず、「メタボリックドミノ」と呼ばれるように、生活習慣の乱れを起点として、さまざまな病気がドミノ倒しのように連鎖的に発症していくことが特徴です。

その中でも特に重要なのが、いわゆる「三大合併症」 で、これは糖尿病によって特にダメージを受けやすい3つの部位があることからそう名付けられており、①神経障害②目の障害③腎臓の障害という「しめじ」という言葉で表現されることもあります。

さらに、糖尿病によって血管自体が傷つき、動脈硬化を進行させるという大きな問題もあります。この動脈硬化症は高血圧や高脂血症などの生活習慣病とも深く関係していて、①壊疽②脳梗塞③虚血性心疾患の3つから、「えのき」という言葉で表現されることもあります。

糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病の2つがあり、前者はいわゆる「小児糖尿病」と呼ばれるもので、体の中でインスリンを作る細胞が免疫反応などによって壊されてしまうことが原因で幼少期に発症するケースが多くなっています。後者は俗に「生活習慣病」と呼ばれるタイプで、食生活の乱れや運動不足、ストレスなどが関係して発症することが多く、日本人の糖尿病の約9割を占めています。

そのほか、交通事故などで膵臓を損傷してしまい、インスリンを作る機能自体が失われてしまうケースや、血糖値が上がりやすくなる妊娠中に発症する妊娠糖尿病など、糖尿病と一口に言ってもさまざま原因があり、必ずしも遺伝的な要因や生活習慣だけが原因ではないということを理解しておくことが大切になります。

「一般的には糖尿病というと生活習慣が原因だとされていますが、ここが大きな誤解を生んでしまっています。いわゆる“自堕落”な生活をしてる人がなる病気=糖尿病という風にすり込まれてる人が多いわけですが、長野県佐久市の検診データによると、男女ともに一番糖尿病になりやすいのはBMIが18.5未満の人なんですね。確かに肥満は糖尿病になりやすいですが、それ以上に痩せている人が糖尿病になってるんです」(山田先生)

山田先生によると、日本人の場合は2型糖尿病の中で肥満の人は4割程度しかいなく、残りの6割は肥満ではないとのこと。つまり自堕落な人が太って糖尿病になるというイメージは間違いだったということになるわけです。

また、糖尿病は「肥満がすべての出発点」だと考えられてきましたが、最近の研究では「肥満を改善しても、血糖値がなかなか良くならない人が数多く存在する」ということがわかってきました。本当の原因は「食後の高血糖」にあると言われてきているのです。

「食後の高血糖は自覚症状がほとんどなく、気づきにくいのが特徴です。私たちがさまざまな現場で血糖値を測定してみると、40歳以上では3人に2人が食後に血糖値140mg/dLを超えていて、太っている人・痩せている人に関係なく糖尿病は誰にでも起こりうると捉えています。だからこそ、食後の高血糖こそが糖尿病の根源である ことをしっかり理解し、早い段階で気づくことが何よりも重要です」

1型糖尿病はインスリンを分泌する細胞そのものが壊されてしまうことで発症するため、インスリン注射が基本的な治療方法です。それ以外の2型糖尿病や妊娠糖尿病などは、「1に食事、2に運動、3・4がなくて5に薬」といった生活習慣の改善が最も大切になります。

山田先生によると、現在、糖尿病の治療薬は作用の仕組みによって11種類のカテゴリーに分かれているそうで、「薬は悪ではない」というのを強調していました。「薬に頼る=自堕落」と思われがちですが、実際には薬を早めに使った方が後々やめやすくなることが分かっているとのことです。

10年以上前の研究では、「糖尿病と診断された直後にインスリン注射を行い、血糖が安定したらすぐ中止する」という試験が行われ、最も高い確率で寛解(糖尿病ではない状態)を維持できたのは、最初にインスリンを使ったグループでした。

しかし、糖尿病の薬は“糖尿病と診断された人”にしか使えず、予防目的には適用されないので、糖尿病の予防や改善には「運動」と「食事」が極めて重要になります。

運動は「有酸素運動を20分以上続けなければ意味がない」と言われていましたが、今では「何をやっても、いつやっても、やればやるほど良い」という風に考え方が変わっているそうです。

「運動はたった3分間の足踏みでも、血糖の改善に効果があるという研究データが出ています。無理のない範囲で、できることを続けることが大切です。とはいえ、忙しい現代人にとって継続的な運動はなかなか難しいのが現実なので、確実に取り組めるのが食事です。糖尿病の食事療法では『腹八分目が正しい』とされてきましたが、日本人の糖尿病は痩せている人にも多く、そうした人がカロリー制限をすると、かえって糖尿病を悪化・促進させてしまいます。

そこで重要になってくるのが『糖質制限』です。日本ではいまだに『カロリー制限こそが基本』だと考えられていましたが、最近ようやく日本糖尿病学会でも変化が見られ、私たちの研究論文をもとに、『糖質制限は有効で、カロリー制限は肥満者に限るべき』という方向にガイドラインが改訂されつつあります」

山田先生は10年以上前から「ロカボ」という、無理のない緩やかな糖質制限を提唱しています。1食あたり糖質20〜40g、1日合計130g以下が日本人の平均摂取量の約1/3から半分程度になります。

例えば、おにぎり半分ほどを主食に肉・魚・野菜をお腹いっぱい食べることや、卵やチーズ、適量のアルコールも楽しんでいいのがロカボの基本スタイルです。アルコールには、血糖の上昇を穏やかにし、インスリンを余計に使わないという効果があるため、太りにくい飲み方になるのです。この食べ方を続けると、血糖も脂質も安定し、健康状態が大きく改善するといいます。

もうひとつ、非常に大切な治療法が「血糖値を知ること」です。最近の研究では、血糖値を定期的に測るだけで血糖が改善するというデータが出ているそうで、「血糖値を測る」という行為が、自分の生活習慣を見直すきっかけとなり、自然と行動が変わっていくということです。

今ではテクノロジーの進歩でCGMが登場していて、小さなセンサーを装着するだけで、1日中リアルタイムに血糖値を測定できます。これを活用すれば、インスリンの投与量の調整もより正確に行うことができます。

山田先生は「まずは自分の体の状態を知り、向き合うこと。節制して悪くなる人はいないが、上手に“不節制”を楽しむことも大切」と述べ、説明を終えました。

糖尿病という診断が変えた人生。実体験から見えてくる健康との向き合い方

後半ではチャレンジャー/モデルの星南さん、元プロ野球選手の佐野慈紀さんをゲストに招いたトークセッションが行われました。

最初のテーマは「糖尿病発症のきっかけと診断までの経緯」について。星南さんは大学1年生の夏休みに1型糖尿病を発症し、「喉の異常な渇きや体重減少といった身体の異変は感じていたものの、『1型糖尿病』の病名すら知らなかった」と当時を振り返りました。その後、体調を崩して病院を受診した際に初めて高血糖症状を指摘され、そのまま大学病院へ搬送される形で診断が確定したそうです。

佐野さんは現役引退してから数年後に糖尿病と診断されたとのこと。きっかけは、1ヶ月半も続く長い咳だったそうです。あまりに症状が続くため病院を受診したところ、軽い肺炎と診断され入院。その入院中の精密検査で、初めて自身の血糖値が異常な数値であることを知らされたと言います。

「現役時代に一度だけ『血糖値が高い』」と指摘された経験がありましたが、その際は自分の努力で体重を落とし、数値を正常に戻すことに成功しました。なので、それが『自分で何とかできる』という過信につながってしまったのかもしれません。入院して糖尿病と宣告されるまで健康診断を受けてこなかったため、引退後もまだまだ動けるから大丈夫と思わずに、康診断に行っておけばよかったと今では思います」(佐野さん)

山田先生は、1型糖尿病と2型糖尿病の発症プロセスには大きな違いがあると解説しました。

1型糖尿病は多くの場合、急激に症状が現れるのが特徴で、あるときに血糖値を調整する能力が急激に失われ、脱水状態や強い喉の渇きを覚えるようになります。さらに、エネルギー源であるブドウ糖が排出されてしまうため、体重減少も急激に進むことが多いそうです。

一方で2型糖尿病は、非常にゆっくりと血糖値が上昇していくため、自覚症状がほとんどないまま進行していくのが特徴です。喉の渇きなどの症状が現れるのは血糖値が350〜400程度になってからなので、「定期的な健康診断を受けなければ発見が遅れてしまう危険性が高い」と警鐘を鳴らしました。

次いで、「診断後の生活の変化と病気との向き合い方」をテーマに、おふたりの心境を伺っていきました。

佐野さんは投薬治療と食事療法を行い、節制していたものの「血糖値が200から下がらない」という下げ止まりを感じ、インスリン注射を開始することになります。しかし、その後は心不全で入退院を5回繰り返し、腎臓の機能も失われ、人工透析をすることになったとのこと。

「心不全を発症してからの5年間は入院生活を余儀なくされ、食事も病院で管理された『糖尿病透析食』が中心でした。入院中は血糖値も150以下で安定していたのですが、その後も神経障害や感染症など次々と新たな合併症が見つかるなど、血糖値のコントロールだけでなく、合併症の予防と早期発見がいかに重要になるかを体感
しました」

星南さんはインスリン治療が必須となり、24時間365日、常に自身の血糖値をコントロールする生活へと一変。ライフスタイル自体が大きく変わったことに加え、「社会における1型糖尿病への理解不足と偏見」に苦しんだそうです。自身が病気と真摯に向き合っていても、周囲の誤解との間に大きなギャップを感じることが多かったといいます。

しかし、星南さんは常に血糖値を適正範囲に保つ生活を送ることで、「以前よりも健康的な生活を送れるようになった」と話しました。さらに型糖尿病を発症したことで、「より多くのことに挑戦したい、この命を活かしたいと前向きに考えるようになった」と語りました。まさに逆境をバネに、モデル活動などさまざまなチャレンジを続ける原動力に変わったと言えるのかもしれません。

糖尿病患者は常に変動する血糖値をいかに管理するかが求められることから、「日常生活における血糖値マネジメント」が大事になります。このテーマについて、登壇者たちは自身の経験をそれぞれ語りました。

「現在はCGMとインスリンポンプを組み合わせて治療を行っています。CGMはリアルタイムで血糖値の動きを把握できるため、低血糖や高血糖への不安が軽減され、安心して色々な活動に取り組めていますね。今では多様な治療の選択肢があるため、自分自身が心地よいと感じる方法を選び、病気と向き合っていくことが大切なのではないでしょうか」(星南さん)

「私も数年前からCGMを使用していて、そのおかげで血糖値の動きを詳細に把握できるようになりました。数値が安定していると気持ちも安定しますし、CGMがもたらす精神的な安定感の大きさを実感しています」(佐野さん)

山田先生は医療専門家の立場からCGMの重要性を次のように説明しました。

「血糖値を知ること、それ自体が糖尿病の治療になります。CGMによって血糖値の変動を把握することで適切な食事量やインスリン量をコントロールできるほか、高血糖と低血糖の両方を防ぐことも可能になります。しかし、現状の日本では、CGMの保険適用がインスリン注射をしている患者に限られているという課題があります。本来は糖尿病の前段階の人も含め、もっと多くの人が使うべきだと考えており、CGMの普及を社会にもっと広く伝える必要があると感じています」

セッションの最後に、登壇者それぞれが糖尿病と向き合う人々や社会全体に向けたメッセージを送り、会を締めくくりました。

星南さんは「糖尿病に対する社会の正しい理解が、患者がより生きやすい社会の実現に繋がる」と訴え、佐野さんは「自分なら大丈夫と過信せずに、自分の体に寄り添うことができれば、健康意識は自然と高まっていく」と自らの身をもって学んだ教訓を伝えました。

山田先生は「糖尿病は自業自得の病気ではない」「血糖値を知ること自体が治療になる」ことをあらためて示しました。