伊勢志摩国立公園という“広大な一つの風景”
出典:地理院地図を加工して作成
www.env.go.jp2026年11月20日、指定から80周年を迎える【伊勢志摩国立公園】。三重県の伊勢市・鳥羽市・志摩市・南伊勢町にかけて、およそ6万haの広大な面積を占めています。リアス海岸が続く英虞湾、真珠養殖が受け継がれる穏やかな海、そして伊勢神宮の深い森——こうした自然と文化がひとつのエリアに共存し、長い時間をかけて育まれてきた風景そのものが国立公園として守られています。
国立公園というと、人里離れた雄大な自然を想像してしまいますが、伊勢志摩は少し違います。ここでは、海女さんの営みや漁村の暮らし、信仰や祭りといった文化までもが“風景の一部”として大切にされてきました。自然と人の暮らしが寄り添い合う“里山里海”の姿が色濃く残る”海の国立公園”です。
横山展望台からの眺望
悠久の歴史を持つ伊勢神宮の森から、英虞湾に浮かぶ島々、海辺の集落まで——そのすべてが連続したひとつの風景として存在していることを知ると、伊勢志摩の旅はぐっと奥行きを増します。観光地としてではなく、“国立公園としての伊勢志摩”を歩くことで、自然と人が共に生きてきた時間の流れが感じられ、その土地に息づく文化や暮らしが、風景そのものを形づくってきたことに気づかされます。海と森と祈りが折り重なるように続いてきた営みの積み重ねが、今目の前に広がる伊勢志摩の景観をつくっている——そんな深い連続性を実感する旅になりました。
里山と里海、そして伊勢神宮——2つのエリアが織りなす国立公園
横山ビジターセンター
chubu.env.go.jp伊勢志摩国立公園は、大きく2つのエリアに分かれています。ひとつは、伊勢神宮とその背後に広がる深い森を抱く内陸部。もうひとつは、複雑に入り組んだリアス海岸と多島美が展開する海沿いのエリアです。
内陸には人の暮らしと自然が寄り添う「里山」が、海沿いには海女漁や真珠養殖が息づく「里海」が広がり、どちらも人の営みと自然が共に生きてきた風景として受け継がれてきました。
横山ビジターセンター
横山ビジターセンター
伊勢志摩国立公園は、ほかの国立公園に比べると、国立公園の中でも民有地の割合が高く(96%以上)、居住人口も多い地域です。中には、自分が暮らしている場所が国立公園に指定されていることを知らない方も少なくないのだとか。
この“共存の文化”が根づいた背景には、悠久の歴史を刻む伊勢神宮の存在があります。
横山ビジターセンター
海女漁では小さなアワビを獲らない、潜る日数を制限するなど、資源を守るための知恵が今も受け継がれています。また、伊勢神宮の式年遷宮では、200年先を見据えた檜の造林を進める一方で、役目を終えた社殿の古材は全国の神社や大鳥居へと譲渡され、新たな命を吹き込まれます。 こうした自然と共に生きる技術と、資源を無駄にしない精神がこの地に息づいています
“伊勢志摩=国立公園”という視点で旅をする
お伊勢参りゆかりの伊勢うどんランチ (七越茶屋)
地元の方におすすめしていただいた七越茶屋では、伊勢志摩の“里山・里海の暮らし”がそのまま味になっているような、素朴であたたかい一杯に出会いました。もっちりとした伊勢うどんは、この土地の気候や食文化の中で育まれてきたもの。手こね寿司も、海と共に生きてきた地域の営みを感じさせる味わいです。国立公園として守られてきた風景の中で、人々が受け継いできた食の文化に触れられる場所でした。
波の少ない英虞湾でのんびりシーカヤック(志摩自然学校)
真珠養殖の故郷であり、人と自然が共に暮らしてきた「里海・英虞湾」。リアス海岸が複雑に入り組み、外洋の荒波が直接届かないため、驚くほど穏やかな“里海”が広がっています。志摩自然学校は、この英虞湾に面した登茂山 (ともやま) 公園を拠点に「自然の学び舎」として四季折々のアウトドア&ネイチャープログラムを提供しています。
横山展望台&横山ビジターセンター
標高140メートルに位置する「横山天空カフェテラス」は、伊勢志摩国立公園の“里海”を一望できる特等席です。ここに立つと、英虞湾の複雑なリアス海岸や島々、真珠筏が織りなす風景がひとつの大きな物語のように広がり、まるで自然の一部になったかのような感覚に包まれます。
周囲には常緑広葉樹の森が広がり、その森の栄養が川を通じて海へと流れ込み、豊かな海を育んできたことを思うと、目の前の景色がより深い意味を帯びて見えてきます。森の緑と海の青が調和し、心地よい風が吹き抜けるこの場所は、伊勢志摩の“海と森のつながり”を体で感じられる展望台でした。
ワンコインでいける人気のタクシーも運行中
ise-kanko.jp展望台で絶景を楽しんだあとは、横山ビジターセンターにある4面のシアタールームで、国立公園の様々な場所を体感的に学ぶことができます。風景の奥にある物語がより立体的に感じられます。
ジュニアスイート(シャワー付き)
「一生に残る、大切な一瞬を」(扇芳閣)
「世界中の子育て家族から最も愛される旅館になる」というビジョンのもと、伊勢志摩国立公園の豊かな自然に抱かれながら日本旅館を営む『扇芳閣』。子育て中のご家族が安心して過ごせる宿を目指し、日々さまざまな取り組みを続けています。
「バリアフリー」という言葉が世間一般でも定着していないころ「障碍者から健常者まで、すべての人が楽しめる『旅館』を創る」という目標を持ち、旅館のバリアフリー化を推進、2003年には「障碍がある人が一人でも旅行を楽しめる部屋」として5部屋をユニバーサルデザインルームとして改築しました。
国立公園の中に佇む旅館として、海と森に囲まれた環境を活かしながら、家族の思い出に残る滞在を提供することを大切にしています。小さなお子さま連れでも気兼ねなく過ごせる空間づくりや、地域の自然や文化に触れられる体験など、家族の旅がより豊かになるような発信を行っています。
伊勢海老をはじめとする旬の海の幸を味わえるディナーや、体にやさしい朝食、そしてゆったりと浸かれる温泉を楽しめます。海と森の恵みが育んだ食材や、静かな環境の中で過ごす時間は、国立公園の風景と調和するように心をほどいてくれます。
カメラを撮影する人が階段下からなら被写体は階段上にいても撮影OK
神さまの気配が、今も息づく土地 (伊勢神宮(内宮))
2000年以上続く、日本人の心のふるさと。伊勢志摩国立公園を語る上で欠かせないのが、伊勢神宮の存在です。神域へ一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わるのを、きっと誰もが感じるはずです。
クイズ形式で楽しませてくれたガイドの高橋さん
ラッキーにも午年に神馬にばったり遭遇
ガイド付きで歩く伊勢神宮は、国立公園の成り立ちを理解するうえで欠かせない存在です。森を守り、海を敬い、自然と共に生きるという精神が、この地の文化や暮らしを支えてきました。
お祓いや神楽を体験し、これまでの参拝とは異なる時間を過ごすことができました。神宮の森に守られた静けさの中で、祈りの文化がどのように受け継がれてきたのかを肌で感じられ、伊勢志摩という土地が持つ精神性の深さにそっと触れたような気持ちになりました。
おかげ横丁では赤福本店の“できたて”をいただきながら、伊勢志摩の歴史と日常がゆるやかにつながっていることを実感しました。
今回の伊勢神宮参拝で印象的だったのは、「守られてきた」というより、自然と共に在り続けてきたということ。すべてが“あるべき場所にある”ように感じられました。
海女小屋 はちまんかまど
海女小屋とは、漁場に近い海女たちの前線基地。そのまわりの海は海女漁の漁場です。小屋の仲間は漁獲を競う良きライバルであり、いざというときは命を助け合う運命共同体なのです。漁のあとは、冷えた体をカマドの火で暖めながら、囲炉裏端会議が賑やかにおおらかに始まります。海女小屋はちまんかまどのカチド海女たちは、本物の海女小屋でお世話をする海女です。ですから、息もぴったり!
創業者のれいこさん。94歳。80歳まで現役海女でした。
あうんの呼吸で、炭火で手焼きの伊勢志摩の幸と海女文化を説明、食後には相差音頭を一緒に踊ったり、希望者には「海女コスプレ体験」(別途有料オプション)も!
海女に変身!人気サービス「海女コスプレ体験」*食事とは別途500円
直接海女さんとお話しできます。笑顔が絶えないお二人。元気の秘訣は”笑うこと”。
海女さんが採ったばかりの鮑や栄螺をその場で焼いて提供してくれる海女小屋は、まさに“里海の文化”に触れられる場所です。
資源を守りながら海と共に生きてきた海女漁の精神は、伊勢志摩国立公園の根底にある「人と自然の共生」を象徴しています。音頭や衣装まで披露してくれる海女さんたちの明るさに触れ、この地の暮らしがどれほど海と深く結びついているかを肌で感じました。
国立公園を意識して歩くと見えてくるもの
「国立公園」という視点をあえて意識して旅してみると、地域の人々の生活、歴史、文化、風習、野山の風景や海辺の景観、人と自然との関わりそのものが、これまでの旅以上に深く感じられました。何度も訪れたことのある場所なのに、どこかノスタルジックな感覚に包まれ、日本の原風景に触れたような気持ちになります。観光地としての伊勢志摩ではなく、“国立公園としての伊勢志摩”を歩くことで、海と森と祈りがひとつにつながるような、静かで豊かな時間を過ごすことができました。
もし次の旅先に、「心をリセットできる場所」を探しているなら。伊勢志摩国立公園は、きっとその答えのひとつになるはずです。