物価高騰や人手不足が深刻化する中、中小企業にとって「賃上げ」は待ったなしの経営課題となっています。
2月某日、日本人事経営研究室が行ったイベントで、同社代表取締役の山元浩二氏が、最新データをもとに広がる賃上げ格差の実態について解説を行いました。解説の中では、「人事評価制度の有無」が賃上げ実施率や業績向上にどのような差を生んでいるのかを明らかにし、持続的な成長を実現するための具体策を探りました。
深刻化する中小企業の「賃上げの壁」
近年、大企業の賃上げが注目を集める一方で、「中小企業との格差はさらに拡大している」と山元代表は言います。その背景には、原材料費やエネルギー価格の上昇に加え、慢性的な人手不足があるといい、多くの中小企業がやむを得ず「防衛的賃上げ」を行っているものの、業績改善を伴わない賃上げは資金繰りを圧迫し、結果として経営体力を削る要因にもなっているのが現状です。実際、人手不足を背景とした倒産件数は過去最高を記録していると述べ、「賃金を上げたくても上げられない企業が増えている」と説明しました。
また、単に賃金水準を引き上げるだけでは問題は解決せず、重要なのは労働生産性を高め、持続的に賃上げ原資を生み出せる体制を構築することだと強調。そのための「仕組みづくり」が、いま中小企業に強く求められていると語りました。
データが示す「人事評価制度の有無」の圧倒的な差
日本人事経営研究室が実施した調査では、全国の中小企業経営者・役員200名を対象に、人事評価制度の運用状況と企業への影響について分析しました。その結果、人事評価制度を運用している企業の92%が直近1年以内に賃上げを実施していたのに対し、未運用企業は44%にとどまりました。
また、業績向上を実感している割合も、制度運用企業が53%、未運用企業は26%と大きな開きが見られました。さらに、運用企業の90%が「社員に対する評価が適正」と感じているのに対し、未運用企業では53%にとどまるなど、評価の納得度にも明確な差が表れています。
目標を持って働く社員の割合や社員育成の充実度においても制度運用企業が上回っており、人事評価制度が単なる査定手段ではなく、組織運営の中核的な役割を担っていることが浮き彫りとなりました。
成功企業に学ぶ「ビジョン実現型人事評価制度」の可能性
イベントでは、日本人事経営研究室が提唱する「ビジョン実現型人事評価制度」を導入した、ナガセキトーヨー住器株式会社代表取締役社長 永関英文氏と、株式会社たかはし葬儀社代表取締役 高橋建隆朗氏もオンラインで登壇しました。
同制度は、経営計画と連動した評価基準により、社員の目標と企業ビジョンを結びつける仕組みです。制度運用企業の82%が経営計画を併用しており、計画的なマネジメントが賃上げ原資の確保につながっています。一方、未導入企業では効果への不安やノウハウ不足などを理由に導入が進まず、コミュニケーション面での課題も指摘されています。
永関氏は、制度導入前は「組織全体で強い会社」というよりも個人商店の集合体のような風土があり、社員それぞれの個性が強く、新しい取り組みに対して消極的な体質だったと振り返りました。計画的な採用も行わず、売上や粗利を追うことに意識が集中していたと言います。しかし導入後、目指す姿を全社員で共有し、評価制度を通じて方向性を明確にしたことで、ベテラン社員の意識にも変化が生まれ、社員の平均年齢も52歳から42歳へと若返り、組織の活性化につながったと説明しました。
また、高橋氏は、制度導入後に社員の「働きがい」が向上したと話します。理念に共感する人材が入社するようになり、仕事の基準が明確になったことで、これまで受動的だった社員が能動的に動くようになったといいます。有給休暇の取得率も向上し、組織全体の意識改革が進んだことを実感していると述べました。
持続的な成長を目指すには、感覚的な経営ではなく、評価と育成を軸にした仕組みづくりが不可欠です。人事評価制度は、賃上げを可能にする“コスト”ではなく、未来への“投資”であることが、両社の事例からも示されました。
今後、賃上げ格差を埋めるための鍵は
物価高騰や人手不足が続く中、中小企業にとって賃上げは「やるかやらないか」ではなく、「どう実現するか」の段階に入っています。
今回のイベントを通じて浮き彫りになったのは、人事評価制度が単なる人事施策ではなく、経営戦略そのものであるという事実です。感覚や経験則に頼るのではなく、経営計画と連動した仕組みを整えることが、持続的な賃上げと組織成長の両立につながります。
賃上げ格差を乗り越える鍵は、“人”を活かす経営の在り方にあると言えるのではないでしょうか。