三菱地所グループのスマートホーム事業「HOMETACT(ホームタクト)」が独立し、新会社「株式会社HOMETACT」として新たなスタートを切った。4月8日に行われた記者発表会では、三菱地所 住宅業務企画部長の鈴木智久氏、株式会社HOMETACT 共同代表CEOの松本太一氏、同共同代表COOの橘嘉宏氏が登壇。新会社設立の狙いや、今後の事業戦略について説明した。

HOMETACTは、企業の垣根を超えて家電や住宅設備をつなぎ、1つのアプリで操作できる総合スマートホームサービスだ。住まいの利便性や快適性を高めるだけでなく、不動産業界のDXを後押しする基盤として展開されてきた。新会社設立にあたり掲げたコーポレートメッセージは「日本の不動産に、選ばれ続ける力を。」。サブコピーには「資産価値をあげるスマートホーム」を掲げ、不動産価値の向上と居住体験の両立を目指す姿勢を鮮明にした。

冒頭、鈴木氏は三菱地所グループの長期経営計画において、国内・海外アセット事業に加えてノンアセット事業を新たな柱に据えていると説明。その中でHOMETACTは、住宅事業グループが目指す増益の一翼を担う存在だと位置づけた。

日本のスマートホーム市場は成長途上にあり、機器販売が中心となるなかで、HOMETACTのように複数機器をつなぐプラットフォーム型サービスには独自性があると強調。「今お使いの家電や備え付けの機器を買い替えることなくスマート化できる」「設備や機器に詳しくなくても導入しやすい」点が強みだとした。今後は三菱地所レジデンスのマンションや三菱地所ホームの注文住宅への実装も計画しているという。

続いて松本氏は、これまで三菱地所の住宅事業グループ内で進めてきた事業を、2026年4月1日付で独立分社化したと説明。背景には、スマートホーム事業の成長拡大と不動産DXの加速があるという。不動産業界ではデジタル化が進んでいる一方で、顧客体験の向上や先端技術の活用はまだ道半ばだと指摘し、そのなかでHOMETACTは、住む人だけでなく、建てる人、管理する人まで含めた「三方良し」のサービスを提供していきたいと語った。

松本氏が挙げた分社化の狙いは3つある。1つ目は、営業・カスタマーサクセス・システムなど各領域で専門性の高い人材を確保し、事業推進力を高めること。2つ目は、共同代表制を採ることで意思決定を迅速にし、事業成長のスピードを落とさない体制を築くこと。3つ目は、外部企業とのアライアンスや資本業務提携を進めやすくすることだ。三菱地所100%出資会社としてスタートしつつも、成長に必要な外部連携を積極的に検討していく方針を示した。

橘氏は、HOMETACTを「企業の垣根を超えて家電や機器をつなぐことで、暮らしやすさを高める“住み心地DXインフラ”」と定義したうえで、目指すのは単なるスマートホームの普及ではなく、不動産の経年劣化を“経年進化”へ変えることだと語った。

従来の設備投資が、価値低下をゼロに戻すための“守り”だとすれば、HOMETACTは入居者体験を高める“攻めの体験投資”だという。物件のソフトとハードを両面で更新し続けることで、住み心地と資産価値を同時に押し上げる。その考え方を、橘氏はあらためて「住む人には心地よさを、建てる人には資産価値の強さを、管理する人には運用のしやすさを」という三方良しの言葉で表現した。

実績面も伸びている。HOMETACTの導入は全国44都道府県に拡大し、契約数は3年連続で200%超の成長を記録。連携パートナー企業は30社超、対応機器は200機種超に広がっている。さらに入居者アンケートでは、導入によって暮らしのプラス効果があったと答えた人が94%、次の住まいでも導入物件を選びたいとした人が87.9%にのぼった。住宅業界の現場感覚とスマートホーム技術を組み合わせた点が支持を集めているようだ。

将来目標としては、2032年度に契約数20万戸、売上100億円の達成を掲げた。住宅に加え、介護施設、宿泊施設、病院・クリニック、さらに将来的にはスマートシティへと展開領域を広げていく構想も示している。日本のスマートホーム市場は2026年1.8兆円、2030年2.8兆円規模へ成長すると見込まれており、その追い風を捉えながら“新しい生活インフラ”としての存在感を高めていく考えだ。

質疑応答では、HOMETACTが掲げる「経年劣化から経年進化へ」という考え方に質問が集中した。これに対し橘氏は、価値向上は「最新設備への総入れ替えだけで実現するものではない」と説明。既存のエアコンや給湯リモコンなども、HOMETACTというインフラに接続することでスマートに使えるようになるとした。

そのうえで「5年後、10年後のリフォーム時により高機能な機器を追加すれば、そのぶん入居者体験も高まり、物件価値を押し上げるアップサイクルが生まれる」という。スマートロック単体では不動産業務の効率化に寄与する面が大きいが、複数機器を組み合わせたスマートホーム化では、入居者の体験価値そのものが上がる点が大きな違いだと強調した。

ロードマップに盛り込まれた介護施設や宿泊施設などへの展開については、すでに宿泊施設の運営事業者から引き合いがあることも明かされた。居室の機器制御や共用部の温度管理など、施設運営の効率化ニーズが高まっているという。介護施設についても、カーテンの開閉や照明操作といった日常業務の負担軽減に活用余地があると見ており、人手不足や人件費高騰が進むなかで、こうした分野への展開可能性は大きいとの見方を示した。

市場規模についての質問に対しては、日本の住宅着工戸数が縮小傾向にある一方、スマートホームの導入割合は2040年までに6割近くまで高まるという見通しに触れ、着工戸数が減るなかでも伸びる余地のある領域だと説明した。

現状では2032年度20万戸を目標としているが、日本全体の住宅ストックは6500万戸超にのぼり、狙うべき市場は非常に大きいとも語った。将来的な海外展開については、まず日本市場で事業基盤を固める方針を示しつつ、日本の規格や日本メーカーと組んだアジア圏での展開には可能性があるとの認識を示している。