アルケア株式会社から、0歳以上の小児を対象としたカテーテル固定専用キット<フィックスキット・PV 小児>※が新たに発売されました。
※カテーテル被覆・保護材/一般医療機器/医療機器届出番号:13B1X00207000080

今回は、開発の背景にあった患者さんやご家族の身体的・心理的負担、医療従事者の業務的・精神的負担に焦点を当てながら、現場の課題に対してどのように向き合い、製品開発へつなげていったのかを、開発に際し、多大な知見を提供した塚本先生とアルケアの担当者に伺いました。

「1本の点滴ルートを守りたい」医療現場の課題から始まった製品開発

今回の製品開発のきっかけとなったのは、医療法人財団順和会 山王病院 新生児内科 NICU副部長(本製品開発時:国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター 新生児科医長)の塚本桂子先生の働きかけでした。

塚本先生によれば、日本では少子化や看護師の人材不足が進む一方で、周産期・新生児医療の進歩によって低出生体重児や重症児の救命率が向上し、専門的で高度な医療を要する子どもたちは増加しているとのことです。。その上で、「小児の場合は成人と異なり、1本の点滴で命を救える子がいる一方、点滴が確保できないことで命を落とす場合もあり得る」と点滴の重要性を強調します。

特に新生児や低出生体重児では、点滴を確保するための血管を探すこと自体が難しく、高度な技術と時間を要します。しかし苦労して確保した点滴が体動によるカテーテルの動揺やテープの剥がれなどによって漏れてしまうと、場合によっては重大な皮膚障害につながることもあります。また再び針を刺す際は、子どもに痛みや恐怖を与えてしまうだけではなく、新たな点滴の確保が難しく、治療の継続に影響する場合もあります。

こうした状況を目の当たりにする中で、塚本先生は、小児に再び針を刺さなければならない苦痛、そして「次は血管を確保できるだろうか」という医療者のプレッシャーも感じていました。だからこそ、「せっかく確保した大切な1本のルートを、できるだけ長く守りたい」という思いを強く抱くようになったといいます。

現場の工夫だけでは越えられない壁

当時は成人用の固定テープや複数の医療材料を小さく切り分け、一人ひとりに合わせて手作業で固定していました。しかし、この方法にはいくつもの課題がありました。小児は体動が激しいため、十分な固定力が必要な一方、粘着力の強いテープを使うと剥がす際にデリケートな皮膚を傷める恐れがあります。テープを重ねて固定力を高めようとすれば刺入部が隠れてしまい、点滴漏れや発赤などの異常を発見しにくくなります。さらに、決まった方法や専用の材料がなかったため、医療者によって貼り方や使用する材料にバラつきが生じることも課題でした。

こうした課題に対し、国立成育医療研究センターでは、固定力のあるテープを小さく切って刺入部が見えるように貼り、その上から透明なドレッシング材で覆うなど、点滴をしっかり固定しながら刺入部を観察できるよう、さまざまな工夫をしてきました。しかし、これらを一人ひとりの小児に合わせて手作業で行って行くことは簡単なことではありません。学会の企業展示などでも情報収集を続け、既存の商品で固定力と観察しやすさを両立させることには限界を感じた塚本先生は、小児、特に新生児の体格や皮膚、体動に合わせて設計された専用の固定材が必要だと考えるようになりました。

そこで開発を依頼したのが、1955年の創業から2025年で70周年を迎えたアルケア株式会社。ケアをする人とケアを受ける人、双方の視点に立ったものづくりを強みとする企業で、医療現場と患者さんに寄り添いながら医療安全に貢献していくことを、看護領域の事業コンセプトとしています。

アルケア株式会社 商品戦略部の柿沼知美氏は、本製品の開発を振り返り、「現場のリアルな状況をお聞きする中で、塚本先生の『小さな命の“1本の点滴ルート”を確実に守りたい』という言葉に胸を強く打たれた」と話します。

「これほどまでに現場が困っていて、子どもたちの命に直結する切実な課題があるならば、小児用の製品の知見がなくとも医療機器メーカーとして応えたい」と、開発に挑戦することを決めました。

現場の声をもとに、何度も試作と改良を重ねて

開発では、塚本先生だけでなく、WOCN(皮膚・排泄ケア認定看護師)やNICU看護師も加わり、試作品を確認しながら意見が交わされました。特に重視したのは、カテーテルをしっかり固定しながら、子どもの皮膚を守り、刺入部を観察しやすくすること。そのために採用されたのが、カテーテル下部に設置するクッション材付きのベーステープです。

カテーテルと皮膚の間にクッション性を持たせることで、硬いカテーテルによる皮膚への局所的な圧を分散。さらに、皮膚側だけでなくカテーテル側も両面から挟み込んで固定することで、カテーテルの動揺を抑える設計になっています。また、固定後も刺入部の状態を確認できるよう、フィルムドレッシングに透明な窓構造を設けています。

さらに、実際に使用する看護師が迷わず、できるだけ同じ方法で固定できることにもこだわりました。テープ表面にはカテーテルを置く位置を示すイラストを表示し、剥離紙をはがす方向も矢印や文字で分かるようにするなど、貼付手順を分かりやすくしています。

従来、現場で必要だったテープのカットなどの作業を減らすため、滅菌済みの必要物品が揃ったキットとして提供することも今回の開発のポイントです。

柿沼氏は「患者さんの小さな手の甲のサイズに合わせながら、カテーテルの針先の視認性を確保し、強いカテーテル固定力と皮膚保護のバランスを取るのが非常に難しかった」と振り返ります。

小さな手の甲に合わせてプロトタイプを作製し、塚本先生からフィードバックを受けて改良する。そのサイクルを何度も繰り返し、テープ部分だけでなく、実際に貼付するときの剥離紙の形状や切れ目まで細かく調整していきました。

さらに、実際の臨床現場で使用できる製品になっているかを確認するため、塚本先生主導のもと特定臨床研究も実施。度重なる試行錯誤の末、現在の「フィックスキット・PV 小児」が形になりました。

「このキットの先には、より良い小児医療がある」

国立成育医療研究センターでは、看護師約100名を対象に事前の講習会や実技評価を実施。実際に使用した看護師からは、「業務手順が大幅に改善された」「カテーテルを安定して固定できる」「透明ドレッシングで刺入部を観察しやすい」といった声が寄せられています。一方で、「新生児には、これでもまだサイズが大きい」という率直な意見も。塚本先生は、こうした現場からの声を、今後さらに小さな子どもにも使いやすい製品へと改良していくための大切なヒントと捉えています。

「漏れてしまう点滴をなんとかしたいという思いだけでここまでやってきた。アルケアの皆さまが真摯に耳を傾け、複数回にわたるプロトタイプの作成・検証・改良を行ってくれた結果、このような形となって大変嬉しく思う」と、開発の苦労と完成の喜びを語る塚本先生。

さらに、「本製品は、画期的な新薬の開発や大きな医療機器の発明ではない。ほんの小さな、小児のカテーテル固定専用キットだが、そこには子どもたちの安全と健康、ご家族の安心、そしてより良い小児医療への思いが込められている」と続けます。

そしてアルケア柿沼氏も「この製品によって安定した固定を維持することで、点滴漏れやカテーテル抜去による再穿刺のリスクを減らし、子どもたちの痛みや恐怖といった身体的・精神的な負担を少しでも和らげたい」と言います。

また同時に、「手作業でのテープ作製や固定トラブルへの対応、再穿刺に伴う医療スタッフの精神的な負担を軽減することで、そこで生まれた時間を子どもたちやご家族に寄り添う"質の高い看護の時間"に充ててもらうことも目指している」と語りました。

こうしてうまれたカテーテル固定専用キット<フィックスキット・PV 小児>は、一見小さな固定材です。でもそれが支えていくのは、子どもたちの安全と健康、家族の安心、そして医療現場で働く人たち。これからのより良い小児医療に欠かせないものなのです。