教え子
“限界とか負けってのとは少しちがって、でも似てることもある。おれが聞いた市井のひとの話。
戦前、ひとりの若い小学校教師がいて、教えた子供たちの中に、ひとりだけ恐ろしく頭の良い男の子がいて。なかでも算数に長けていて、若い教師が教科書にも載ってないような応用問題を熱心につくり与えると、嬉しそうに解いていたと。
やがて卒業が近づき、上の学校に進んではどうかと尋ねると、生徒は目を輝かせたあとで塞ぎ込み、「そのような金がありません」と答えた。
なるほど。学資の捻出が難しいのかと、今で言えば奨学生のような手筈を整え、その子の家に行くと、両親が落涙とともに「ありがたいことですが、そうではなく、この子に...