同じカテゴリーでは「かわいい車」の方が売れているのか?

軽自動車においてはいまだに多くのかわいい車が存在し、また人気があることは前項のとおり。それでは同じカテゴリー同士で比較した場合に、「かわいい車」と「そうでない車」(かわいくないという意味ではありません!)の販売台数に差はあるのでしょうか。いくつかの実例をもとに検証してみましょう。

ラウンド1 レトロ系対決
ダイハツ「ムーヴキャンバス」vs スズキ「ワゴンRスマイル」

画像1: ラウンド1 レトロ系対決 ダイハツ「ムーヴキャンバス」vs スズキ「ワゴンRスマイル」
画像2: ラウンド1 レトロ系対決 ダイハツ「ムーヴキャンバス」vs スズキ「ワゴンRスマイル」

かわいい車の代表格ともいえるダイハツ「ムーヴキャンバス」。その見た目に加えてトールワゴン+スライドドアというライバルのいないボディタイプだったことも人気の理由でしょう。その空白地帯に2021年9月に乗り込んできたのがスズキ「ワゴンRスマイル」。トールワゴン+スライドドアという成り立ちは一緒ですが、その外観スタイルはスマイルというかわいい名前とは異なるテイストです。ちなみに事前撮影会の際にスマイルの広報資料を隅から隅まで読み込んだのですが「かわいい」という文字が見当たらなかったことを覚えています。

ワゴンRシリーズの詳しい台数内訳が発表されていないので推測になりますが、間違いなくムーヴキャンバスの方が売れています。ただスマイル発表前にはTOP10圏外に落ちる月もあったワゴンRシリーズが、2022年度(22年4月〜23年3月)の販売台数で82,713台の5位まで戻したのはスマイル効果でしょう。とはいえムーヴシリーズは順位こそ1つ上の4位ですが22年度の台数は106,313台と大きく差をつけています。

やはりかわいい車は売れている!といいたいのですが、この2台に関しては「大当たりのかわいいデザイン」のムーヴキャンバスと、「ちょっといまいちな普通のデザイン」のワゴンRスマイル、の結果と見るべきでしょう。前述しましたがスマイルの広報資料に「かわいい」という文字がないかどうか隅々まで探した理由は、スマイルのデザインの狙いどころがよくわからなかったからです。スマイルのヘッドライトの意匠はどうしてこうなったのでしょうか、と開発陣に特にしつこく聞いたのですが、「いろいろ検討してこの形になりました。でもこのヘッドライト、コストは掛かっているんですよ」としか答えをもらえませんでした。スズキがムーヴキャンバスとは違う方向を目指したのは間違いないところで、その志やよし、しかしコレじゃなかったよね、ということでしょうか。

ラウンド2 雑貨系対決
スズキ「スペーシア」vs ホンダ「N-BOX」&ダイハツ「タント」

画像1: ラウンド2 雑貨系対決 スズキ「スペーシア」vs ホンダ「N-BOX」&ダイハツ「タント」
画像2: ラウンド2 雑貨系対決 スズキ「スペーシア」vs ホンダ「N-BOX」&ダイハツ「タント」
画像3: ラウンド2 雑貨系対決 スズキ「スペーシア」vs ホンダ「N-BOX」&ダイハツ「タント」

この記事で何度かふれていますが2017年12月にデビューした2代目スズキ「スペーシア」は雑貨系のかわいいデザインで躍進を遂げた1台です。このマーケットにはホンダ「N-BOX」という絶対王者がいます。N-BOXは車としての実力もクラストップレベル、そこにホンダのブランド力と販売力も加わって、なかなか切り崩すのは難しいと判断したのでしょう。スズキは内外装とも雑貨モチーフとすることで真っ向勝負を避けたように見えます。しかしそれが当たってN-BOXには勝てないものの、ダイハツ「タント」や日産「ルークス」を上回る成績を残しました。

一方でスペーシアが売れたのはカスタムを押し出しの強い顔のままとしたことも作用していると思います。スペーシアの1年半後にモデルチェンジをしたタントのカスタムが、「N-BOXカスタム」を意識したのか、ことのほか上品になってしまい、結果的にカスタムらしい顔は「スペーシアカスタム」一択というラッキーな(?)状況が生まれました。N-BOXに勝てないのは仕方ないとしてスペーシアより下というのは、ダイハツとしては想定外の事態だったのでしょう。昨年末のマイナーチェンジでカスタムのフロントマスクを以前のような押し出しの強いものに戻し(ライト単体だけでなくボデイの一部も修正する念の入った変更でした)、さらにスペーシアギアの後追いでクロスオーバーのファンクロスを投入、ようやくスペーシアから2位の座を奪い取ることに成功しました。

かわいい車という本筋からは外れましたが、そういった理由はあるにしても、かわいい雑貨デザインがスーパーハイトワゴンという売れ筋の市場でも一定の評価を得ていると言い切っても良いでしょう。

ラウンド3 生き物系対決
トヨタ「シエンタ」vs ホンダ「フリード」

画像1: ラウンド3 生き物系対決 トヨタ「シエンタ」vs ホンダ「フリード」
画像2: ラウンド3 生き物系対決 トヨタ「シエンタ」vs ホンダ「フリード」

2015年にトレッキングシューズのような斬新なデザインで登場した2代目シエンタは大ヒットモデルとなり、販売ランキングの上位常連となりました。一方のホンダ「フリード」は2016年に2代目モデルが登場しこちらも大ヒット。コンパクトの3列シートミニバンがこの2台しか存在しないこともあってシエンタと激しい販売合戦を繰り広げます。シエンタの斬新なデザインは時間が経つにつれ少々飽きられてきたのか、はたまた初代からキープコンセプトのオーソドックスなデザインのフリードが2019年のマイナーチェンジでシャープなフロントマスクに修正したせいなのか、途中からフリードがやや優位という状況が続いていました。

そんな状況下で2022年4月に3代目に切り替わったシエンタはかわいい系のデザインで、再びランキングの上位に戻ってきました。フリードがモデル末期ということもあって、直近はシエンタが差をつけていますが、モデル末期の割にはフリードがしぶとく売れているという見方もできます。

■2019年度(19年4月〜20年3月)
シエンタ108,067台(3位)前年比112.6%
フリード84,407 台(7位)前年比100.9%

■2020年度(20年4月〜21年3月)
フリード73,368台(8位)前年比86.9%
シエンタ68,233台(11位)前年比63.1%

■2021年度(21年4月〜22年3月)
フリード73,661 台(8位)前年比100.4%
シエンタ49,992 台(14位)前年比73.3%

■2022年度(22年4月〜23年3月)*シエンタは22年4月にモデルチェンジ
シエンタ92,766 台(5位)前年比185.6%
フリード79,820 台(6位)前年比108.4%

かわいいデザインに生まれ変わったシエンタは、今のところ好調ということができるでしょう。前モデルの斬新なデザインは数年でやや飽きられてしまったように見えますが、今度のかわいいデザインは果たしていかに。そしてフリードはモデルチェンジでどう変わるのか。フィットのように生き物系なのか、ステップワゴンのような雑貨系なのか。注目していきたいマーケットです。

ラウンド4 アニメ系対決
スズキ「ハスラー」 vs ダイハツ「タフト」

画像1: ラウンド4 アニメ系対決 スズキ「ハスラー」 vs ダイハツ「タフト」
画像2: ラウンド4 アニメ系対決 スズキ「ハスラー」 vs ダイハツ「タフト」

全世界的なクロスオーバーSUV人気の追い風だけでなく、その個性的なデザインもあってスズキ「ハスラー」は大ヒットモデルとなりました。2020年1月に販売を開始した2代目モデルもハスラーらしさを受け継ぎ、順調な販売を続けています。一方のダイハツ「タフト」は2代目ハスラーの後を追うように2020年6月に登場しました。ダイハツは2015年にデビューした「キャスト」にアクティバというクロスオーバー仕様を設定していましたが、やはり専用ボディでなかったせいか販売的にはハスラーにまったく歯が立たず。起死回生で投入された「タフト」はどこか「ハマー」を思わせるSUVらしい直線基調のデザインを採用し、ハスラーのかわいい路線とは明確に差別化を図りました。このあたりはムーヴキャンバスとワゴンRスマイルの関係が逆転していて、しかしどちらも後発はかわいいデザインを避けたという点で共通しており、なかなか興味深いところです。

■2021年度(21年4月〜22年3月)
ハスラー72,639台(5位)前年比85%
タフト61,200台(9位)前年比100.5%

■2022年度(22年4月〜23年3月)
ハスラー71,276台(7位)前年比98.1%
タフト58,208台(10位)前年比95.1%

この2台の販売状況はハスラーが終始優位に進めています。上記の23年4月の販売台数ランキングではタフトの方が売れていますが、この3年間でハスラーより上に来た月は数回しかありません。この2台、走りの実力は乗り心地やCVTの出来でハスラーの方が良く、また後席シートスライドやラゲッジの使い勝手などでもハスラーの方が良いなと思うのですが、そこまで極端な差はありません。タフトはいかにもSUVらしい質実剛健なデザインで、失点につながるような出来ではないと思います。そうなるとハスラーのかわいいデザインがムーヴキャンバスのように「大当たり」だったのではないでしょうか。

ラウンド5 雑貨系対決
スズキ「アルトラパン」 vs ダイハツ「ミラトコット」

画像1: ラウンド5 雑貨系対決 スズキ「アルトラパン」 vs ダイハツ「ミラトコット」
画像2: ラウンド5 雑貨系対決 スズキ「アルトラパン」 vs ダイハツ「ミラトコット」

元祖・雑貨系のかわいい軽自動車代表がスズキ「アルトラパン」。2002年のデビュー以来、特に免許を取ったばかりの若い女性、それも公共交通機関に不便のない東京・名古屋・大阪の中心部以外、つまり日本の大部分のエリアの女性たちから絶大な支持を得てきました。客観的なデータをお出しすることはできないものの「免許取ったらラパン、は常識です」という証言を複数の若い女性たちから聞いたことがあります。雑貨っぽい内外装はモデルを重ねても大きく変わることなく、ラパンワールドは確立したように見えます。

一方のダイハツもこの軽自動車のエントリーマーケットに数々の「かわいい車」を送り出してきました。レトロ調の「ミラジーノ」からデフォルメされた丸さが特徴の「ムーヴラテ」、「ミラココア」を経て、シンプルさを目指した「ミラトコット」へとモデルをつないできました。同じ雑貨系に分類したこの2台、しかし細かいところまでデザインされたアルトラパンに比べると、ミラトコットはシンプルさが裏目に出て素気ない印象を与えてしまったのが、販売台数に差がついた原因ではないでしょうか。

いかにも女性っぽさを全面に出した「かわいい」は時代遅れだと、社内外の女性から聞いたとダイハツはいいます。確かに同じような話をインテリア業界でも聞いたことがあります。ただ、そういう考えを持った女性は公共交通機関に不便のない都会、首都圏でいえば概ね国道16号線の内側に住む女性に多いのではないでしょうか。そしてそのエリアに住む人たちは軽自動車どころか車そのものが必要ないような気がします。エビデンスのない勝手な推測ですが。

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専門家がおすすめする「かわいい車」 ベスト3

ここまで登場した「かわいい車」の中で、専門家であるカルモマガジン編集長が見た目以外も含めて、総合的におすすめできる3台を選びました。

第1位 スズキ「ハスラー」
レトロに頼らないオリジナリティ豊かな内外装のデザイン、走りも良い!

画像: 第1位 スズキ「ハスラー」 レトロに頼らないオリジナリティ豊かな内外装のデザイン、走りも良い!

軽自動車のクロスオーバーSUVとして人気のハスラーをかわいい車のおすすめ1位としました。レトロに頼らないオリジナリティ豊かな内外装のデザインは、現代的な「かわいい」を非常に高いレベルで表現しています。Gショックのようなインパネは見た目の楽しさと機能性を両立、後席とラゲッジルームの使い勝手もライバルを凌ぎます。

スズキご自慢のマイルドハイブリッドは非常にコスパの良い装置で、ライバルより1割ほど良い燃費を生み出します。刷新されたシャシーも構造用接着剤による剛性強化も効果的で、スズキの軽自動車で最も良い乗り味と乗り心地を実現。そんな走りの出来の良さも高評価につながりました。

第2位 ダイハツ「ムーヴキャンバス」
かわいいの理解度は本家よりダイハツの方が上

画像: 第2位 ダイハツ「ムーヴキャンバス」 かわいいの理解度は本家よりダイハツの方が上

新型が登場したばかりのムーヴキャンバスがおすすめ2位です。これはもうデザインのモチーフとなったワーゲンバスの「普遍的なかわいい」によるところが大きいのですが、本家から登場したばかりのフォルクスワーゲン「ID. Buzz」に比べても、ワーゲンバスの「かわいい」の理解度はダイハツの方が上だなと感じます。顔が怖いんですよね、ID. Buzzは。ドイツ人は「かわいい」の勉強をもっとした方がいいでしょう。

新型に切り替わったばかりなのでロードノイズが少し気になるものの基本的な走りの実力や安全装備に問題はありません。乗っても見ても楽しい気持ちになる、のんびり走りたくなる、そんなかわいい車の魅力が詰まった1台だと思います。

第3位 トヨタ「シエンタ」
かわいいとシックが上手く折り合った好デザイン

画像: 第3位 トヨタ「シエンタ」 かわいいとシックが上手く折り合った好デザイン

旧型とは打って変わって親しみのあるデザインとなったシエンタがおすすめ3位。全体的なシルエットに塊感のある非常に良いデザインだと思います。リアは意外とトヨタっぽさが残っている(?)のですが、斜め前から見たスタイルはかわいいとシックが上手く折り合った好デザインだと感じます。依然としてホンダに差をつけている燃費の良さ、3列目シートの床下格納などの気配りも魅力です。

あえて難をいえばハイブリッドの走りが最近のトヨタハイブリッドの中ではルーズに感じます。まあ以前のモデルに比べたら随分良くなっているのですが。

日本が誇る「かわいい車」と一緒に暮らしてみよう

機能性が優先されてきた自動車のデザインに「かわいい」というジャンルを確立したのはBe-1をはじめとした日本車たち。その「かわいい」はさまざまな解釈のもと、時代に合わせて進化するものもあれば、普遍的な「かわいい」を追求するものもあり、軽自動車を中心に今でも結構な存在感を示しています。親しみを感じさせてくれる「かわいい車」は自動車というよりペットに近い存在なのかもしれません。家族の一員のような車を探しているのであれば「かわいい車」をぜひ候補に入れてみてはいかがでしょう。

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カルモマガジン編集長 馬弓良輔(まゆみよしすけ)

記事一覧

旅行やクルマ雑誌の編集長を歴任し、2017年8月から現職。クルマは見た目が5割、走り味が4割、あとの1割は「運命の出会い」というのが自身のクルマ選びのモットー。走り屋ではないが長距離ドライブを好み、最近の愛車はSUVを乗り継いでいる。が、しかし他にも隠し持っているクルマがあるとかないとか・・・。

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